水産資源の生産

ウグイ・オイカワの人工産卵床作り

「クキ」「ハヤ」「赤っ腹」とも呼ばれるウグイは、釣り人の間では単なる対象魚ではなく、むしろ外道としてのイメージが定着しています。しかし、幼少期や学童期に針と糸、枝を使ってピストン釣りなどに夢中になった方もいるのではないでしょうか?

「釣りはフナに始まり、フナに終わる」という言葉があるように、かつては身近な水域に多くのフナやウグイが生息しており、遠くに出かけなくても釣りを楽しむことができました。

特にウグイは水質汚染に強く、青森県の恐山にある宇曽利山湖(うそりやまこ)のような酸性の水質でも生息する、頑健な魚として知られています。しかし近年では、河川環境の変化や国内外からの外来種との競合などにより、個体数が減少しているとされています。

私たち群馬漁業協同組合では、利根川に生息する淡水型のウグイと、降海型のマルタウグイを対象に、毎年産卵床の造成を行い、増殖に力を入れています。本年度の活動内容をご紹介します。


2024.05.11 ウグイの産卵とその後に孵化を確認しました。


人工産卵床つくり(2024.05.05)

作業開始前のミーティング

利根川の7日間平均水温

毎年、春のお彼岸の頃になると桜の開花に関するニュースが伝えられますが、ウグイの産卵もこの桜の時期に重なると言われています。

春の風物詩として、ウグイの産卵のために瀬に集まるウグイを捕獲する地域も存在します。千曲川では「つけば漁」と称し、那珂川水系では「アイソ漁」、埼玉や群馬では「マヤ漁」と言われています。この漁法は以前は広い地域で行われていたようで、九州では「イダ漁」、岩手県では「クキ瀬漁」と言われています。

 

私たちの管轄する利根川では、上信越国境の膨大な積雪とダム群の影響から、桜の開花が伝えられる頃の水温は10度以下です。ウグイの産卵が始まる11度~13度に達するのは、二十四節気の立夏あたりではないでしょうか。

     

桜や山菜の活動が気温に左右されるように、ウグイの産卵も川の状況に左右されます。そのため、おおよそ半月前から候補地の水温と水量を考慮し、実際にウグイを捕獲して婚姻色の有無を確認した上で、造成日時と場所を選定しています。

    

今年の産卵床はいくつかの候補地の中から、事前の調査結果を踏まえて利根川下流の軍艦島付近で行われることになりました。当日は、産卵床造成実績のある組合員から作業手順や安全に関するレクチャーを受けているところから始まりました。(2024.05.05)


堰石を積む

ウグイの産卵に適した条件は、水産庁や各都道府県の水産試験場などが指標を示していますが、各漁協の造成報告を見ると、許可を得て重機を用いて中州や分流を作る方法や平瀬の中央付近に窪地を設け周囲を大きな石で囲う方法など、形態は様々です。

今回の産卵床は、平瀬の岸寄りに造成されますので、産卵床の上流部に大きな石を並べて、下流との高低差を設けることとなりました。これは、ウグイが自然に産卵している早瀬の流速を再現するためです。

堰石に使用する石は、安定して座り流れに耐えるものを川を右往左往しながら探すのですが、平瀬の石は川底に半分埋まっており、掘り出すのに苦労したり、水中から持ち上げるとズシリと重く、浮力の利点を直接感じることができます。


耕耘の様子

堰の高さがある程度確保できたところで、堰下の耕耘が始まります。スキやジョレンを用いて川底を掘り、砂を下流へと流しながら、目的の水深になるように耕耘していきます。この時に現れた大きな石は堰の補強に利用されます。

川は上流から下流へと流れていますので、下流から上流へとジョレンを引くと水流が大きな抵抗となります。そのため、耕耘する場所ごとに横からジョレンを引いたり、上流からスキを入れたりと、皆さん苦労されているようでした。

川床の耕耘は、十分な時間をかけて行っていました。ハヤの好む早瀬の川床は浮石が多く、石同士の間には十分な隙間があって伏流があります。川底を十分にかき回して、空隙と浮石のベットを作るのが目的です。

         
      

礫を運び込む

さて、堰下の耕耘が進んだところで、堰下に礫(レキ)を敷き詰める作業になります。水産庁の指標に従って選んだ石を用いて、堰の頂上から産卵場所に向けて傾斜が付くように石を入れていきます。

敷き詰める礫は、河原にあるものを用いることになりました。これは、増水時に洗われて泥の付着が少ないこと、苔がついていないこと、そして大きさや汚れを目視で選択することが容易であるという理由からです。

河原の石は比較的綺麗ですが、大きさや形も様々です。石を拾いながら歩くのは大変ですから、表面の石を熊手で掻き起こすと、小さな石が熊手の爪の間からこぼれ、適切な大きさの石が集まります。

適度な大きさの石を堰下の傾斜部分から産卵床へ敷き詰めるのですが、産卵床近くの河原から石がなくなると、どんどんと採取場所が遠くなってしまいます。30度近い気温の中、汗だくになりながら何度も往復する姿がとても印象的でした。


川床の様子

産卵床の造成が進むと、写真のように白っぽい川床が目立つようになってきました。産卵床の大きさは奥行き6m、長さ11m程で、水深は概ね膝丈くらいでしょうか。

水産庁の指標では深さ1mとされていますが、各漁協が公開している画像やマヤ漁の様子を見ると、河川の状況や経験からか、比較的浅い産卵床でも産卵が行われているようです。

ウグイの産卵期は1か月程度続きますが、一度産卵した場所には続けて産卵を行わないと言われています。今回の産卵床の耕耘状況を見ると、複数の場所で産卵が可能になるように川床に起伏が出来上がっていました。


ウグイの産卵床案内板

今回造成した産卵床は、大雨やダムの放流によって強く濁れば泥をかぶってしまったり、流されて崩れ、産卵に適さない形状へと変化してしまいます。また、水量や濁りの変化が無くても、2日程度で苔が発生し、ウグイの好む環境ではなくなってしまいます。

そこで、この産卵床は、例年、ウグイの産卵期が終了するまで、適宜立ち寄って産卵の有無を確認し、産卵床の形状維持のために再耕耘を行っているとのことです。

産卵床を造成した場所はテープで囲い、河原に産卵床の案内を立ててあります。ウグイが産卵し、卵が川床にある可能性がありますので、産卵床の案内看板が撤去されるまでの間、どうぞ温かく見守っていただけると幸いです。

作業の様子

アカシアの花
参加した組合員
堰の高低差
 
河原の石集め
川床の耕耘
作業用の道具